【完】『ふりさけみれば』

「みなみちゃん、あなたは東京での仕事に向いてないような気がするの」

そう五十嵐彩が切り出したのは、木屋町の古い喫茶店で会っていたときのことである。

「ここね、ステンドグラスが素敵でしょ?」

たしかに。

あまり京都らしさがないように思えるステンドグラスだが、不思議に東郷青児の絵画にマッチングしていた。

「ここの店といえばゼリーポンチだよねぇ」

彩が頼んだのは、サイダーに小さくカットされたゼリーの入ったゼリーポンチである。

「みなみちゃんは、どうしたいの?」

「…分からないんです」

「あなたが分からないものは、さすがにうちにも分からないなぁ」

彩は小さく笑った。

「でも、東京から離れてみて感じたのは、あの都会は人間らしく働くには過酷な場所ってことかな」

「えっ…」

「だって分かるでしょ? あの場所で戦って生き残るには、恋だとか、結婚とか、あるいは自分らしさとか、そういう何かを犠牲にしなきゃならないの」

みなみは反駁できなかった。



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