【完】『ふりさけみれば』

木屋町からの帰り、みなみは前に一慶に連れてきてもらった賀茂の河原に、おのずと足が向かっていた。

草むらに腰を下ろすと、

──いったい全体どないしたんや?

といいたげな様子で小首を傾げていた白鷺が、次は川面で小魚を窺っている。

「…辞めようかなぁ」

なんとなく気持ちが傾いていた。

その刹那。

「橘くんやないか」

声のする方向に目をやると、ジーンズに古着のパーカーを着た一慶が、自転車に乗っている。

「なんぞ遭ったか」

「…先生、レギュラーが」

「外されたんやろ、そんな分かっとるがな」

スタジオで爆弾落とされたらかなわんからやろしな、と妙にフラットな物言いである。

「まぁ河原で吹きっさらしの話も難やから、新福菜館でも行かんか?」

「さっき先輩とゼリーポンチ食べてきたんで」

「ソワレか」

あすこ雰囲気えぇやろ、といい、

「まぁ何があったんかは分からんけど、せっかく志望しとったアナウンサーなったんやろ?」

夢は最後の最後、アディショナルのホイッスルまで諦めたらあかん、といった。


< 40 / 323 >

この作品をシェア

pagetop