【完】『ふりさけみれば』
木屋町からの帰り、みなみは前に一慶に連れてきてもらった賀茂の河原に、おのずと足が向かっていた。
草むらに腰を下ろすと、
──いったい全体どないしたんや?
といいたげな様子で小首を傾げていた白鷺が、次は川面で小魚を窺っている。
「…辞めようかなぁ」
なんとなく気持ちが傾いていた。
その刹那。
「橘くんやないか」
声のする方向に目をやると、ジーンズに古着のパーカーを着た一慶が、自転車に乗っている。
「なんぞ遭ったか」
「…先生、レギュラーが」
「外されたんやろ、そんな分かっとるがな」
スタジオで爆弾落とされたらかなわんからやろしな、と妙にフラットな物言いである。
「まぁ河原で吹きっさらしの話も難やから、新福菜館でも行かんか?」
「さっき先輩とゼリーポンチ食べてきたんで」
「ソワレか」
あすこ雰囲気えぇやろ、といい、
「まぁ何があったんかは分からんけど、せっかく志望しとったアナウンサーなったんやろ?」
夢は最後の最後、アディショナルのホイッスルまで諦めたらあかん、といった。