【完】『ふりさけみれば』

「でも」

「そんな、でももヘチマもあるか! 夢を諦めてえぇのは新しい違う夢が出来たときや」

うちかて舌禍やらかしたけど、まだ夢は諦めてへんで…と一慶はおどけてみせた。

「先生の夢は?」

「気になる子がおってな、その子に好いてもらうことかな」

口調は冗談めかしているが目は真剣で、どうやらその誰かを遠く望んでいるような様子である。

「…先生」

「なんやねんな」

「たまに遊びに来て大丈夫ですか?」

「そんなことぐらい構わんで」

この一言のあと、みなみはなぜか滞在していたホテルの部屋をキャンセルした。

──東京から通えばいい。

どうも、そんな面があったらしかった。



< 41 / 323 >

この作品をシェア

pagetop