【完】『ふりさけみれば』
「でも」
「そんな、でももヘチマもあるか! 夢を諦めてえぇのは新しい違う夢が出来たときや」
うちかて舌禍やらかしたけど、まだ夢は諦めてへんで…と一慶はおどけてみせた。
「先生の夢は?」
「気になる子がおってな、その子に好いてもらうことかな」
口調は冗談めかしているが目は真剣で、どうやらその誰かを遠く望んでいるような様子である。
「…先生」
「なんやねんな」
「たまに遊びに来て大丈夫ですか?」
「そんなことぐらい構わんで」
この一言のあと、みなみはなぜか滞在していたホテルの部屋をキャンセルした。
──東京から通えばいい。
どうも、そんな面があったらしかった。