【完】『ふりさけみれば』
7 京急線
四月。
みなみは思い切ったことをした。
引っ越したのである。
それまで住んでいた豊洲のマンションから、家賃の安い六郷へと移った。
果たして。
それまで有楽町で乗り換えていたのが、乗り換えなしの京急線一本で局に通えるようになった。
多少ゆとりが取れるようになると、みなみはバラエティーでもあまり嫌な顔をしなくなって、
「この頃の橘ちゃん、いい顔してるね」
と制作会社のプロデューサーあたりから誉められるようにもなった。
すると。
「橘さん、一緒にご飯ゆきませんか?」
などと共演の芸人から声がかかるようになったのだが、
「わたし、かなり食べますよ」
と前置きし、しかも実際に目黒の焼肉屋で何万もする松阪牛の肉をバクバクと大口で食べる姿をさらすと、
「橘ちゃんエンゲル係数超高いし」
という案配で声がかからなくなってしまう。