【完】『ふりさけみれば』
「聞いて極楽、見て地獄…」
「そう。採用試験のときなんかさ、われわれと一緒に楽しく番組を作りませんかなんて言っといて、実際は現場についたら、怒鳴られるわ人間扱いされないわ、おまけに休みなしでしょ?」
話が違うよね…梨沙はぼやいた。
ふと。
「そういえば前、兵藤先生がいってた話があって」
「兵藤先生って、あの兵藤一慶?」
「うん、それで前に話してたのが『テレビ局はマドロスのにおいがする』って」
「えっ?」
梨沙はキョトンとした。
「マドロスって靴が汚いと出世できないんだって。うちの業界もそういうジンクスみたいのがあるみたいで」
兵藤先生が靴の綺麗なスタッフを見て、
「あれは身だしなみが出来とるから出世する」
といい、事実そのスタッフは今はチーフになっているのである。