【完】『ふりさけみれば』
そうしたなか。
バラエティー番組の収録の現場に入ったみなみは、少し身を固くして本番を迎えた。
「では五秒前、四、三…キュー!」
収録は始まった。
冒頭は何事もなかったが、たまたまこの日は雛壇に口が悪いので有名な芸人があって、
「松田ちゃん結婚するんだろ? 橘ちゃんは相手ないんじゃないの?」
などといじってくる。
通常なら少し対応すれば落ち着くのだが、このときはなぜか執拗にいじられた。
段々腹が立ってきたみなみは、
「そういうあなたはどうなんですか!」
と画面でも判然とするような、不機嫌な様相をあらわにした。
が。
相手は芸人である。
ここで黙っているはずがない。
「もしかして、ある野球の選手とか?」
「そういうのではないです」
みなみはむきになって進行しようとした。
「いやいや、無視してる場合じゃないでしょ」
「…」
みなみは返事をしなかった。
「何かいえよ、このブタ!」
その瞬間、みなみの中で何かが飛んだ。
ツカツカツカ、と歩み寄ってきて、するとみなみは何もいわずいきなり、芸人にビンタを張ったのである。
しかも。
そこそこ強かったようで、
「…!」
その場で倒れた。