【完】『ふりさけみれば』

そのようにして。

みなみの日帰りの京都の休日は終わった。

が。

東京に戻ってきて。

みなみは気づいたことがあった。

「そんな小さいビニール傘なんぞ使って…風邪引くやろ」

雨に濡れた際に借りた、裏に友禅で菊の柄が散りばめられた一慶の傘をそのまま東京に持ってきてしまっていた。

判明したのは出勤してからで、

「…どうしよう」

困り果てたみなみは、傘に小さなカードで詫びのメッセージを添え、京都の一慶の事務所へと返送することにしたのである。

住所は一慶の名刺のそれを書いた。

「何か悪いことしちゃったなぁ」

みなみはわずかながら罪の意識があったものか、少しだけだが胸が痛んだ。



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