【完】『ふりさけみれば』
しばし。
みなみは手紙を前に考えた。
仮に。
これが例えば、麻布十番や三軒茶屋あたりの、みなみがかつて取材に行ったことがあるような店であったとする。
それは。
ただのナンパと考えて間違いないであろう。
が。
具体的な場所もさることながら、直筆の手紙で来たのである。
通常なら。
セキュリティの絡みもあって、プライベートなアドレスは易々と人には教えないものだが、
(先生がせっかくいうんだから)
このとき。
あとからみなみ自身もなぜそうした行動を選択したのかは分からないらしいが、
「…書いてみようかな」
とみなみはメールではなく、中学時代にバレンタインで書いて以来という手紙を書いて、出勤前にコンビニのポストから投函したのであった。