【完】『ふりさけみれば』
京都篇
1 一通の手紙
その日は珍しく。
彩や力と河原町三条の居酒屋で飲んで、少し遅くなって、一慶は上賀茂の自宅へ戻ってきた。
見ると。
郵便受けにピンクの可愛らしい封筒がある。
「誰やろ?」
裏の差出人を見ると、
「みなみより」
とあった。
驚いた、というどころではない。
「返事…ほんまに来よった」
瞬時に酒は醒め、隣の公園の欅をさわさわと渡る葉擦れの風が少し冷たい。
一先ず着替え、寄り道したコンビニで買ったカップの蕎麦をさらっと手繰り、一息ついたところで、みなみからの返信の封に鋏を入れた。
中身は、
「一慶様へ」
という書き出しである。
「…先生やないな」
少し不思議がったが、その疑問符は読み進んでゆくうちに解けた。