【完】『ふりさけみれば』

みなみは恵里菜から一慶の名前が出てきたことに少し動揺したのか、

「誰から聞いたの?!」

と問う頃には、口が渇いてきていた。

「うちは梨沙からわずかに聞いたけど、もしかしたら知ってる人いるんじゃないかなぁ」

恵里菜の発言に、みなみはショックを通り越し、全身の血が急に冷めてゆくのを、みずからどうすることもできないまま、その場に立ち尽くした。

「今までみんないわなくてごめんね」

「うぅん」

「わたしはみなみにきちんと伝えたほうがいいような気がしてたんだけど、梨沙が他人の恋だから口出ししないほうがいいんじゃないかって」

梨沙も気にしていたらしいことは、その一事で察せられた。

「でも兵藤先生ってあたりが、みなみらしいかなって」

「えっ…」

「だってあの人、裏表ないし」

むしろ。

「みなみみたいな子が合ってるような気がする」

笑顔で、恵里菜はいった。

「うちら同期の中で、みなみは研修のときよく怒られてたから、梨沙もわたしも何気に心配はしてたんだよね」

案外、恵里菜は悪人ではないらしかった。



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