【完】『ふりさけみれば』

だからといって。

一慶は特にメディアを嫌う様子もなく、

「まぁこっちゃは犯罪やっとるわけじゃなし、好きに撮りたいやつには撮らしとく」

ということもいう。

それは。

兵藤一慶という、文学部から純然たる文壇を経たサラブレッドではない、もとが工学部で化学を学んでいた、いわば傍流ゆえの見方であるようにも見える。

ただ。

主流派ではない一慶だからこそ分かる心情もあったようで、

「あの子、実はいわゆる病気持ちなんやけど、手先が器用でえぇ作品を発表するから、そういうとこは凄いなと素直に思う」

というようなことを、はっきり口にしたりもする。

誤解もしょっちゅうだが、

「誤解なんかほっとけ、こっちゃは六階から上に行きたいねん」

などと切り返す。

それまでそんな発想を見たことも聞いたこともなかったみなみにすれば、

「どうしてそんな考えになるんだろう」

という、一慶に対する好奇心のようなものが湧くのは自然であったかも分からない。



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