【完】『ふりさけみれば』
また。
例の手紙のやりとりも、一慶という男の人となりを見事なまでに象っていた。
みなみが書いて一慶に届くと、
「みなみちゃんへ」
と即座に返事を書いて出す。
しかも。
かなりの筆まめらしく、軽く便箋に三、四枚は書く。
それでその日のうちに東京に出すので、当たり前だが早く返事がみなみの手元に着く。
多いときには週に三通来た。
それだけで。
一慶が人に対し律儀で、それは仕事もそうであったらしく、担当の吉岡編集者いわく、
──作家には珍しく、〆切前に原稿が来る。
という側面もあった。
が。
連載はしない。
基本的に短編の読み切りを発表し、発売されたハードカバーは二冊ほど長編があるぐらいで、あとはすべて短編である。