【完】『ふりさけみれば』

さらに。

てっきり妻帯者だとばかり思っていたが、

「あいつ独り身やで」

という力からの情報が、最もみなみは衝撃的であったらしい。

そういえば。

一慶は常に身軽というか、何かに責任を負っているプレッシャーが皆無で、

「背負ってるのはリュックぐらいのもんやな」

などと軽口をたたく。

おまけに。

着道楽といわれるほど一慶は、ファッションに気を遣う。

テレビに出ていた頃は毎回小綺麗な和服に糊の効いた袴を穿き、歌舞伎役者よろしくノメリの下駄なんぞを鳴らし、長めの扇を脇差のようにたばさんで、

──まるで時代劇だな。

といわれたほどの着こなしをしていたぐらいである。

また。

普段着も古着がメインで、みなみと会う日は夏場は外国のサッカーのレプリカのユニフォーム、寒くなるとブルゾンやパイロットジャンパーといったミリタリーの古着を身にまとう。

それがまた、古風な一慶の顔立ちに似合うのである。

(どんな人なんだろう)

みなみの興味は、深まるばかりであった。



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