【完】『ふりさけみれば』
何日か、過ぎた。
その日は折しも雨で、肌寒かったからか上衣を羽織る人が数多あって、
「どこが温暖化や」
と力なんぞは、何日か前に作業した黒松や唐楓をフレームに移動するほどの冷えっぷりであった。
ひとしきりフレーム移動が終わった頃、
「六代目」
と園の若衆が力を呼んだ。
「どないしたんや」
「彩さんがお越しです」
「すぐ行く」
「はい」
身支度を整えてアプローチまで出ると、
「ごめんね急に」
ピンクの傘を差した彩が、わざわざ待っていてくれたらしかった。
「急にどないしたんや」
「今夜さ、仕事終わったら逢いたいな」
「大丈夫やけど」
じゃあまたあとで、と彩は門を出た。
雨の中に消えて行く。
「…そのぐらい、メールでえぇやんなぁ」
しょうもないやっちゃで、というような顔つきで力は再びバックヤードに戻った。