【完】『ふりさけみれば』

あのね、と彩はいう。

「大原のキャンベルさんって知ってる?」

「知らん」

「もともとアメリカの人で、大原で野菜作ったりしながら絵本描いてる人なんだけどさ」

「ふーん」

「こないだ密着取材に行ったらね、すごく毎日が生き生きしてるの」

「まぁそら、大原あたりで土いじりながら生活してりゃ、ストレスもあれへんやろしな」

「で、キャンベルさんから君も大原で農業してみる気はないかって」

「…あのな彩」

「ん?」

「正気か?」

力は一気にビールを流し込んだ。

「うちなんかはまぁ盆栽園で農業とは毛色少しちゃうけど、生き物相手って結構しんどいねんで」

彩は都会育ちやからなぁ、と力はそこを危ぶんだようで、

「思い付きで出来る事業とちゃうで」

だいいち初期投資どうすんねんな、と力は訊いた。

「そこは今までの貯蓄もあるから大丈夫だって」

「んな甘いもんちゃう」

力は酒が入ると頑なになるようであった。



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