【完】『ふりさけみれば』
話は結論から記すと平行線であった。
「まさか彩が、あんなに頑固やったとは思わへんかったで」
数日が過ぎた頃、寄り道で訪ねてきた一慶に力は歎いたが、
「いっぺんやらしたったらえぇんやないかなぁ」
力にすれば驚くべき内容の発言を一慶は放った。
「お前かて生き物商売したことないから、そんな勝手がいえるんや」
力はむきになった。
「まぁ待て…チャレンジして後悔するのと、チャレンジせんで後悔するのと、お前どっちゃがえぇねん」
「そらチャレンジした方が、後からグヂグヂいわんで済むやろ」
「ほんなら彩ちゃんに農業やらしてみたら、よろしんとちゃうか?」
一慶という男は怒鳴らない。
その代わり。
ここはという攻めどころになると隙のなさ過ぎる理窟で、相手に反駁の余地すら与えないふしがある。
これには。
力も折れざるを得ない。
この時期。
彩の知人の女性社長から揮毫を求められた一慶は、
「常に戦場に在り」
と彩の目の前で書いているが、
「いつも戦うような心積もりでおれば、何事にも慌てんし騒がんし誤らんで済む」
どうやらそれが、彩へのメッセージでもあったらしかった。