【完】『ふりさけみれば』
5 大原へ
年が、明けた。
春先になり、彩はそれまで勤めていた関西のローカル局を退職した。
「とうとう辞めよった」
力は露骨に渋い顔をしたのだが、一慶は気にするでもなく、
「別にえぇんとちゃうか」
とサラリと流してみせる。
あとから顛末をみなみは知ったのだが、
「彩さんらしいなぁ」
私も何か見つけなきゃ、と羨んでいるような雰囲気で、それを察した一慶は、
「みなみちゃんも、何か好きなこと好きなようにやったったら、よろしんちゃう?」
とだけ何気なくいった。
これが。
のちのちみなみの人生を左右してゆくのだが、当の一慶はこうした大事なことを何気なく放言する癖があったようで、
「そんなん…いうたかなぁ?」
と、あとから一慶は頭からスッポリ抜け落ちているようであった。