【完】『ふりさけみれば』
とにかくも。
彩の大原暮らしはそのような感じで始まった。
小さな事務所も開いた。
「看板ぐらい、ちょっとは遊んだり」
と事務所の看板は、一慶が知り合いで芸大出の漫画家に書かせた。
こうしたところも。
どこか余裕のある面があって、みなみも嫌いではない。
師匠、ともいうべきキャンベルの勧めで、小さな庭で和風のカフェをオープンさせると客の入りはまずまずで、
「何か名物は要るよね」
などといい、アナウンサー時代から習っていたお菓子作りの腕を活かし、畑で採れた野菜で作ったクッキーを出したりしていた。
一慶や力は顔を出す程度であったが、何より彩が水を得た魚のように、かいがいしく働くのを見て、
「おれが反対したのは何やったんや」
と力は苦笑いを浮かべた。