奏で桜
医師は如何にもありえないという顔をして、
そして模範通りの解答をしようとしていた。

でも、それは間違いじゃない。
普通こういう状況に陥ったとき、
私が医師の立場だったら
あいつを止めるからだ。



「いい、から…ぼくに…じょうきょ、うを…」


あいつは朦朧とした意識の中で
〝私の〟問題を解決しようとした。

私はそんなあいつをみて、
希薄な安心と濃厚な不安を得た。

安心の方はあいつに私が救われたから
に違いないが、不安の方は私のあいつに
対する疑心に余計、火を焚きつける
だけにすぎなかった。

簡単に言えば、〝わからない〟が
増えたということだ。


結局、あいつが自分自身で手続きを
全てやってしまった。

そしてそれが終わると同時にあいつはまた
力尽きたかのように眠った。







…そうしてこの日は幕を閉じた。
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