奏で桜
そう、彼女はいつも〝向こう側〟を
見ている。
こちら側には何も未練がないみたいに、
境界線の向こう側にある世界を
遥か遠くを見るように眺めているのだ。


その眼にいったい
何が映っているのだろうか…。
いや、あるいは何も映っていないの
かもしれない。
それは僕の知るところではなかった。


…ただ唯一、言えることは
今、現在起こっている状況を
彼女は望んでいないということだ。



…〝この場所〟は彼女にとって単なる
足枷にしかすぎないのかもしれない。



月下の元で机に頬杖をつきながら
見上げる彼女はまさに…、


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