イケメン御曹司に独占されてます
結局今日も遅くなってしまった。
金曜日のオフィスは引きが早く、フロアには誰も残っていない。
午後から取引先に呼びだされた池永さんも戻ってくることは無く、広いオフィスにひとりきりで仕事には集中できていたけれど、さすがに午後十時をすぎる頃に帰り支度をしてフロアを出た。
大通りから路地に入り、駅までの道を急ぐ。と、不意に肩を叩かれ、意識を完全に浮遊させていた私は、飛び上がらんばかりに驚いた。
「福田さん? 福田さんだろ?」
振り返ると茶髪にピアスという、一見派手な男の人が立っている。
えっと……誰?
「オレオレ。高二んとき同じクラスだった田口だよ。覚えてない? 一緒に風紀委員やったじゃん」
風紀委員? これで? 必死で記憶の糸を手繰り寄せ、そして〝田口〟という苗字をようやく探し当て——。
「え? ホントに田口くん? あのピアノが上手で優等生だった?」
ぽっちゃりとして小柄な、屈託なく笑う大人しい男の子。私の中の田口くんはそんな印象なのに、目の前にいる茶髪の彼はなんだか別の世界に生きてそうな、ピッタリした革のパンツなんかを履いている。
どうみても普通のサラリーマンでは無さそうだ。
「田口くん、なんだかすごく変わったね」
「そうだろ? 今さ、バンドやってるんだ。 福田さんは知らないかもだけど、俺ピアノで音大へいって、そこでロックに目覚めてさ。インディーズだけどこないだCDも出したんだよ」
「本当!? すごいね!!」
高校時代の記憶がだんだんよみがえってくる。よく見れば、くるくるしたパッチリ二重には見覚えがある。
「福田さん、今帰り? これから何か予定あるの?」
人懐っこい目で田口くんが私の顔を覗き込む。
「これから皆で飲むんだけど、良かったら福田さんも来る?」