イケメン御曹司に独占されてます

怒ってる、ということだけが理解できた。
それも、怖いくらい真剣に。


瞬きもできずに池永さんを見つめると、刺すような眼差しが私を捉える。
ゆっくりと近づいて、息がかかるほど近くにある唇。無造作に眼鏡を外して放り投げると、池永さんの顔が顕になった。

初めてじかに見る池永さんの瞳。無機質で透明な、薄い緑の硝子を連想させる吸い込まれそうな瞳だ。
とても綺麗で、魅力的で、唇が微かに震えた。こんな時だというのに、私は池永さんに見惚れている。


池永さんは怒っているのに。


触りたい。この人に触れたい。もっと近づきたい。
もっと近くで、声も、体温も、感じたい。
大きな腕に包み込まれたい。
そんな感情に支配されて、はっと我に返った。


こんな時に、私一体何考えてるの!?
こんなのおかしい。それになんだか自分が怖い。
なんで私……こんなに池永さんのこと好きになっちゃってるの?


どうしよう、と途方に暮れた瞬間、目の端から涙が流れた。
あとからあとから溢れる涙に、咳き込むように息が詰まる。しゃくりあげては喉が引き攣れて……もうぐちゃくちゃだ。
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