イケメン御曹司に独占されてます
あまりの麗しさに思わず視線を逸らした私に、池永さんが少し不機嫌な視線を向ける。
まだお昼休みの時間帯だから人影まばらなオフィス。
プライベートな話をするなら今しか無い。あぁ、だけどドキドキする。

バッグの中にある、さっき七海子から渡された封筒を指先で探し当て、恐る恐る取り出した。




『これ、専務からもらったんだけど、萌愛にあげる』


妖しく微笑みながら、華やかなネイルを施した指先が封筒を差し出す。まるで魔法使いの杖のように。


『秀明さんを誘ってみなさいよ。——ううん、ダメダメ。それほどの迷惑をかけて、これくらいのお礼は当然でしょ?』




「あの、これ、宮原さんから貰ったんですけど。宮原さんは専務から貰ったって」


そう言って差し出した封筒を、池永さんの長い指が受け取って中からチケットを取り出す。二枚あるそれを見た冷静な瞳が、みるみる優しく細められていく。


「……劇団十二支? これ、なかなかチケット取れないんだぞ」


「あの……。池永さん、今日の夜って何か予定……」


「無いよ。今日はなんにも入ってない。完全にフリーだ」


そう即答した笑顔は見たことないほど甘くて、オフィスでは用心深く注意していたはずの理性は、いとも容易く吹き飛ばされる。

ずっと見つめていたいはずなのに、何かが溢れてしまいそうで——耐え切れずうつむいた私を、優しい瞳が見守っていた。




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