イケメン御曹司に独占されてます
そのあと定時で仕事を終わらせた私は、ウィンドウショッピングをしながら時間を潰していた。
池永さんは午後から取引先で新規プロジェクトの打ち合わせ。今日は顔合わせ程度の内容だから約束の時間には十分間に合うと言っていた。


秋から冬に向かう街並みは深みのある色彩に染められて、街路樹も、路面のショーウィンドーも冬支度を急いでいるようだ。

約束の時間まで小一時間。なんとはなしに百貨店の入口をくぐると、ちょうど目の前にある海外ブランドの化粧品が目に入る。


煌びやかに並ぶ色とりどりのリップやアイシャドウ。ライトに照らされてキラキラ輝くように見えるのは、きっとそれが女子にとって特別な力を持つものだから。綺麗になれる魔法の道具——綺麗になれる? こんな地味な私でも?


普段はあまりメイクをしない私も、特別なオーラを発する魅惑的な存在に、無意識にふらふらと吸い寄せられる。新色と記された並びには、秋らしい色合いのリップ。おずおずと手が伸びて、そっと色を確かめる。


「何かお探しですか?」


ふと目を上げると、隙のないメイクを施した店員さんがにこやかな笑顔でこちらを見つめていた。一糸乱れぬシニヨンと完璧に整えられた眉が、一般の女子とは明らかに違っている。


「えっと……。あの……」
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