イケメン御曹司に独占されてます
「お仕事帰りですか? このふんわりしたAラインのスカートスーツはとてもお似合いですけど、ビジネス仕様で華やかさに少し欠けるので、マスカラはたっぷりと」


いつの間にかもうひとり店員さんが増えて、私の髪を触っている。


「お客様の髪、艶があって手触りが良くて、本当に羨ましいですわ。でもミュージカルに行くのですから、少しアレンジしてみては如何でしょう? 簡単な編みこみでしたら、私、できますので」


「そうね。とても大きくて黒目がちな目をしていらっしゃるので、フェイスラインを出して目を印象的にしたいわ。緩く編み込みにして、片側で束ねてリボンを結びましょう」


「あの、私リボンとか持ってなくて。……どこかで買ってきましょうか!?」


「大丈夫です。うちにプレゼント用のリボンがございます。それで十分な仕上がりになりますから、お任せ下さい」


メイクを施してくれる店員さんが、まぶたにアイシャドウを乗せていく。時おり指先でなじませながらラインを引き——目を閉じてなすがまま身をゆだねていると、「今日は彼氏とご一緒ですか?」と聞かれる。


「い、いえっ。彼氏とかでは無くてっ……。あ、憧れの人っていうか……」


反射的に出てしまった本音に、店員さんたちが色めき立った。


「お客様、それは『今アタック中の人』ということですね!?」


「あの、いえ、そういうことでも無くて」


「もしかして初めてのデートですか!? それは大変ですわ!!」


俄然やる気を出して目を輝かせる店員さんたちに、私は為すすべもなく手をかけられていった。




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