イケメン御曹司に独占されてます
結局、百貨店をあとにしたのは約束の時間まであと僅かにせまった頃だった。
週末の街は仕事を終えてそれぞれの場所に急ぐ人たちで賑わっている。
その隙間を、小走りに急いだ。


——もしかして、初めてのデートですか?


さっき店員さんに言われた言葉がよみがえる。
池永さんとふたりで食事したり車に乗せてもらったことは何度もあるけれど、どれも成り行きでそうなっただけのことだ。
だからこんな風に約束してふたりで会うなんて初めてのことで——。


デート?
今日の場合はたまたまチケットをもらえただけで……。そうだ。デートなんて立派なものじゃなく、単なるお出かけだ。特に池永さんにとっては、ただの後輩との観劇だろう。

なのに、油断すると胸がときめいてしまう。こうやって気持ちが華やいでいくのも、さっきの店員さんたちに綺麗にしてもらったことだけが理由ではない気がして、なんだか落ち着かなくなった。


ふと立ち止まって、ショーウィンドーに映る自分を確かめる。
普段あまりメイクをしないから控えめに仕上げてもらったけれど、スッキリ整えた眉が見えるように流された前髪とサイドで束ねられリボンを結ばれた姿は、いつもとはまるで違って見える。
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