イケメン御曹司に独占されてます
約束の時間から二時間以上が過ぎた。目の前を通り過ぎる人の影もまばらになった、オフィスビルの扉の前。

硬い大理石の上にずっと立ち続けているせいか、少し体がふらついた。
冷たい壁にもたれて、不安な気持ちにじっと耐える。


今日の池永さんの打ち合わせは、お得意様に出向いての顔合わせだ。もしかしたら、そのまま食事にでも行こうと誘われたのかも知れない。初めての顔合わせで先方にそう誘われたなら、池永さんも断れないだろう。


それならいい。会社に損害を与えないための接待なら、例えチケットを無駄にしても専務だって咎めはしないだろう。

私だって構わない。池永さんが無事でさえいてくれればそれでいい。ここへ来てさえくれれば。無事な姿を見ることができれば、それだけで。


それとももう帰っちゃった? ……それでも池永さんが無事ならその方がいい。これだけ遅くなったらもう来ないかも知れない。いつまでここにいたらいいのかな。帰った方がいいのかも知れない。いや、でももう少しだけ……あと少しだけ……。


最後は祈るような気持ちで頭を垂れたまま、私は身動きひとつ出来ないで待っていた。
ただ、池永さんだけを。



それからどれくらい経ったんだろう。
不意に大きな足音が聞こえて、見慣れた足元が私の目で立ち止まる。
走って来たことが分かる、荒く乱れた息が頭のすぐ上で聞こえる。
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