イケメン御曹司に独占されてます
だから、勘違いしないように気をつけなきゃいけない。
身の程をわきまえて、多くを望まない。
呪文のように胸に言い聞かせる。


いつか、池永さんに特別な相手が出来たら、こんなことは何ごとも無かったように終わる。
もしそうなったら……黙って池永さんのそばから消えよう。
せっかく入った一流企業だけど、目の前で家族を増やしていく池永さんの下で働き続ける自信は、正直無かった。


眼鏡越しに私を覗き込む、透明なガラスを思わせる眼差しを想って、胸が締め付けられる。
池永さんを想うだけで知らず知らずに膨らんで、抑えきれなくて溢れてしまう気持ちが、自然に涙になって流れてしまう。


そばにいられなくなる日がくるまで、せめて一番近くで池永さんを見ていたい。
デスクのとなり、腕が触れ合う距離でこっそり盗み見る真剣な横顔も、何かを深く考えるときに見せる近づきがたいほどまっすぐな視線も、いつか会えなくなった時に思い出せるほど、胸に焼き付けておきたいから。

いつか会えなくなった時……。

本当に私は、それに耐えられるだろうか。

コツンと扉におでこをつけて目を閉じる。
ひんやりした感触が、額を伝ってのぼせた頭を冷ましていく。

しっかりして、萌愛。

何度か額をぶつけて、目を覚ますように心に言い聞かせる。
そして、ふと配属の日、七海子たちと無邪気に話していたことを思い出す。


やっぱり、第三営業部は、荒野の果てだったね。







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