イケメン御曹司に独占されてます
その言葉に、最後の止めを刺される。と同時に、拓哉さんが心から愛している人が誰なのかはっきり分かった。

拓哉さんは加奈子さんを……。たぶん、ずっと前から。


拓哉さんの胸に突っ張った手が、力無く滑り落ちる。
そんな私の濡れた頬を、拓哉さんが指で拭った。


「……萌愛ちゃん、いっそ僕のものになる？　そうすれば、秀明のことも加奈子のことも、ふたりで見返してやれるよ？」


拓哉さんの瞳の色が暗く沈む。その深い湖みたいな絶望が切なくて、また涙が溢れる。


「きみは本当に良い子なんだな。きみみたいな女の子を好きになれば良かった。そうすれば、こんなに辛い目には合わずに済んだのに。……やっぱり、それも無理か。僕は全部、秀明に先を越されてる」


拓哉さんの指が頬を滑る。指先から拓哉さんの優しさと悲しさを感じて、やりきれない思いでいっぱいになった。
その指に手を重ねて、そっと顔から離す。
私を慈しむように包んでくれるのに、欲しいのはこの手じゃない。
それはきっと拓哉さんだっておんなじだ。


「やっぱりダメだね。きみのプリンスは僕じゃない」


拓哉さんこそ——そう言いかけた言葉を飲み込んで、私はその場を後にした。


< 203 / 271 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop