イケメン御曹司に独占されてます
遅い時間になっていたからか、オフィスの人影はまばらになっていた。

それでも私の隣の席には、身動きひとつしない広い背中が座っている。

池永さんは私を見るなり眉をひそめた。


「どこへ行ってた? あちこち探したんだぞ」


問いかけに答えることなく、私は帰り支度をする。
ただ見つめられているだけで、また泣いてしまいそうだった。


「帰るのか? なら送って——」


「大丈夫です」


もう、いい加減にして欲しい。これ以上感情を乱されたくない。
乱雑に机の上を片付けると、バッグを掴んで足早にエレベーターホールに向かう。


「ちょっと待てよ! 話ぐらい聞いたらどうだ!」


追ってきた池永さんに廊下で簡単に追いつかれ、手を引かれて唐突に会議室に連れ込まれる。

後ろ手に鍵をかけて、暗がりの中で唐突に抱きすくめられた。
強引すぎる池永さんの行動に、反射的に抗う。


「やっ……」

「ダメだ。……離さない」
< 204 / 271 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop