イケメン御曹司に独占されてます
どれほど抵抗しても力を緩めない。それに、こんなに余裕の無い池永さんを見たのは初めてだ。


「どこへ行ってた? 誰と一緒にいた? もしかして拓哉?」


「池永さんには関係ないです」


自分こそ、今まで一体どこで何をしていたの?
そんな言葉を飲み込んで、顔を背ける。

「拓哉とどこにいたんだ? 何を聞いた? まさか……あいつお前に何かしたのか!?」


苛立ちを隠そうともせず、池永さんが感情的に言葉を吐き出す。自分は加奈子さんとあんなに派手な立ち回りをしておいて。こんなの、あまりにも勝手すぎる。

それとも、そもそも私のことはペットの犬ぐらいの気持ちで、あんな場面を見せたところで、どうとでもなるとでも思っているんだろうか。
口答えなんて許さない、そんな主従関係だとでもいうの?
そんな考えが脳裏をめぐり、そしてはっとする。


そもそも、池永さんは私の気持ちなんて知らないのだ。もちろん池永さんにだって、私に対する恋愛感情なんてあるはずもない。

私を抱きしめるのだってトラウマのせいだし、この間のキスだって……。きっと池永さんみたいな人にとっては、まちぼうけを食らわせた女の子をなだめるくらいの、軽い気持ちだったに違いない。


それなのに……。勝手にこんなにショックを受けて取り乱している私は、なんて愚かなんだろう。


「黙ってないでちゃんと目を見て答えろ。どこにいた? 誰に何を言われたんだ!?」


こんなことになっても、まだ私の心まで支配しようとする。余りにも傲慢で横暴なやり方に、本当は怒りたいのに、溢れてくるのは涙ばかりで……。
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