イケメン御曹司に独占されてます
肩を掴んで顔を覗き込み、愛おしそうに肩を抱いて——今思い出しても、胸を突き刺されるような光景だ。
ギュッと握り締めた私の手の上に、加奈子さんのすんなりした手が重なる。


「落ち着いてよく思い出して。私の視線の先には、拓哉がいたでしょう?」


加奈子さんに言われて、ハッとした。
フロアの入口と私たちの席を結ぶ延長線上に——拓哉さんの席。


それじゃあ、あの時加奈子さんが会いに来たのは——。


「拓哉ったら、泣いている私のこと無視したの。昔からそういうわざと意地悪するところがあって、だけど今回の意地悪は、意地悪じゃ済まなくて、私——」


そこで加奈子さんの言葉が詰まり、美しい大きな目に涙が浮かぶ。


「拓哉のこと、ずっと好きだったの。子供の頃からずっとだわ。幼稚園の頃からずっと一緒だったから。ね、拓哉って幼稚園の頃は皆の王子様だったの。女の子たち皆が拓哉のこと好きで、だから私、いつもやきもきして」


「小学校五年からは、皆の王子様は転校してきた秀明だっただろ?」


不意に背後から聞こえた声に驚いて振り返る。とそこにいたのは——。
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