イケメン御曹司に独占されてます

「萌愛?」


いつの間にか頬を濡らした涙に、七海子が驚いてタオルで拭いてくれる。


「どうしたの……?思い出すの、辛い?」


「ううん……。そうじゃ無いけど、なんか勝手に涙が出てきて」


本当の所、あの時の記憶は曖昧で切れ切れにしか思い出せない。
勝手にひとりであの場所へ入った私。襲いかかってきた凶暴な野犬。慌ててくぐった有刺鉄線の、鋭い刺。


七海子にティッシュでチーンと洟をかまされて、一息ついてまた話だす。


「もう会えなくなってしまうって分かって、どうしても四葉のクローバーを渡したくて。それで入っちゃいけない所に勝手に入ったの。ターくん、四葉には特別な力があるって。だから僕の願いも叶えてくれるかも知れないってさみしそうに言ってたことがあって」


「ターくんの願いは何だったの?」


「覚えてない……。ただ、ターくんはいつも優しく笑ってたけど、時々すごくさみしそうで。よく分かんないんだけど、見てると胸が苦しくて」

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