イケメン御曹司に独占されてます
『やめろ』じゃなくて……たしか、『どういうつもりだ』だったけど。
あの時の池永さんは、オフィスでは見たことのない池永さんだった。
なにがどう違うとは説明できないけど、あんなに取り乱した姿を見るのは初めてのことだった。
……やっぱり、何がなんだかよく分からない。
困惑する私にワインを継ぎ足しながら、七海子が唸るように言った。
「それで岡田さんは、萌愛に興味があるって言って……肩の傷も知っていた、と」
「うん。それでびっくりして、体が動かなくて」
それにあの瞳の色。
綺麗に微笑む唇の形にも見覚えがあるような気がする。
「それって……岡田さんがターくんってことじゃないの?」
昨日から私が抱いていた思いを、七海子が口にした。
「実はこの前源兄ちゃんの家に行った時、ターくんがうちの会社にいるって聞いて……」
「えー!? そんじゃ、決まりじゃん」
岡田拓哉。おかだたくや。ターくん。
ほぼ確信に近い思いが、はっきり胸に浮かぶ。
「そっか……。うーん……。でもなぁ……」
そんな私を気遣うように、ワインを口に含んだ七海子が気まずそうに目を逸らした。
言いにくいこと?
豪快に見えて優しい七海子は、野口くんと同じく人を傷つける言葉を口にしない。
グラスに残っていたワインを飲み干した七海子が、意を決したように口を開いた。
「岡田さん、婚約者がいるって噂だよ。どこかの社長令嬢で、もう子供の頃から親同士が決めた公認の相手なんだって」