今宵、君の翼で
プロローグ
あれは去年の1月のことだった。
突然兄が交通事故で他界した。
目撃者によると、兄は青信号の横断歩道を歩いていたところに一台のバイクがブレーキも踏まずに突っ込んできたらしい。
バイクも横転したが、すぐに起き上って姿をくらましたと。
今も犯人は逃走中のまま。
両親は正気をなくし、家の中はめちゃくちゃになった。
3つ年上の兄は優秀で、父の跡を継いで医者になる予定だった。
私は成績も悪いし、いつも親に迷惑かけてばかりで。
真面目な兄とは正反対の人間だった。
言葉にはしないけど、私の方が死ねばよかったのにと親は思ってるかもしれない。
私を見る両親の冷たい視線が、すべてを物語る。
私の家は、あの事故の日から時が止まっている。
動くことは2度とないかもしれない。
私は兄の代わりにはなれない。
どうやっても、お兄ちゃんに勝つことはできない。
< 1 / 230 >