今宵、君の翼で

「まだ翼のこと全然わかんないしっ……」


「あー、確かに。じゃ今度走るときこいよ」


「走る?」


「言ってなかったっけ?」


バイクに貼られていたステッカーを指差す。


ドクンと心臓が音を立てた。


「Phoenixのメンバー……なの?」


「そ。今週末集まるから来いよな」


思わず頷いたものの、ちょっと怖くなった。

でも今更何をビビってるんだろう。

家出して、体売って稼いでるくせに。

これ以上怖いものなんてないよ。


そのとき、浅野さんから電話が着た。


「ダチ?」


「う、うん……」


「じゃ、そーゆーことで。気ぃつけて!」


翼は手を挙げると勢いよくエンジンをふかして行ってしまった。


なんだかまだドキドキしている。

あのビー玉みたいな瞳に見つめられると動けなくなる。


「あ……パーカー返すの忘れてた」


ぶかぶかのパーカーからは翼の匂いがした。

私の好きな、海の匂いに近いような……



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