今宵、君の翼で
父は淡々と話しているように見える。
「でも…ドナー探しが難航して…今日まできてしまった。母さんは今腹水がたまっていて…余命は1ヶ月くらいかもしれない」
私は「嘘!?」と叫んで立ち上がった。
「余命1ヶ月って…どうして!?他に治す方法はないの!?」
俯いていていた父が顔を上げた。
「ああ…。あらゆる手段を考えたよ。毎晩寝ずに…」
「そんな…」
確かに母の顔はやせ細っていて、食欲もないと言っていた。
その原因ががんだったなんて。
頭の中が混乱しておかしくなりそうだ。
「母さんにはそろそろ言おうかと思っている。もう…気づいているかもしれないがな…」
そういえば今朝、私に何か言おうとしていた。
もしかしてこの事を私に伝えようと!?
私はその場に立ち尽くしていた。
母の死が、間近に迫っている。
信じたくないけど、父がドナー探しをして罪を犯したといっていたお兄ちゃんの手紙の内容とつじつまが合う。
ショックすぎて、言葉も出てこなければ、涙も出てこない。