今宵、君の翼で

「こんな俺だけど……ついて来てくれんの?」

「うん……」


「引き返すなら今だけど」


「無理だよもう……翼がいなきゃ無理……」


少し離れてみてわかったこと。


いつの間にか、私の中で翼の存在が大きくなっていたんだ。


それがなくなって、空っぽになっちゃった私は、魂の入っていないただの入れ物のようだった。

そう、あの時と似ている。


お兄ちゃんが死んだ日。


私はあまりにもショックで、涙も出なかったっけ。


でも泣きたくなかった。


泣いたらお兄ちゃんの死を認めちゃうような気がして。


「美羽……ありがとう」


翼の腕の中は暖かい。


私はこの人を幸せにしたいと、この日心に決めたんだ。

お兄ちゃんは守れなかったけど……翼のことは守ってみせる。


だからお兄ちゃん。


どうか私に力を貸して……?


「翼……私、翼とならお兄ちゃんに会いに行けるかもしれない」


「お兄ちゃん?」




< 69 / 230 >

この作品をシェア

pagetop