先生に、あげる。


まぶたの奥の瞳と目があうと、僕はすぐに、咲織の手を握った。


「さ、咲織?」


医師達は相変わらず、騒がしく、なにがどうとか、騒いでいる。

でも、僕らの間には二人だけの世界があるようで、そこだけは、静かだった。


「私ね、幸せだった。」


咲織は力なく言う。

僕も何度も何度も頷いた。


「僕も、僕もだ!」

「さよなら、……愛してる。」

「僕も、…君を、……愛してるよ。」
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