お隣さんはイケボなあなた
「千紗ちゃんこそ、こんな時間にどうしたの?」
彼は、ベランダの手すりに乗せた腕の上に顔を乗せて、こちらを覗きながらそう言った。
「一時過ぎに、女がベランダでため息と独り言を言っていたら、怖いですよね」
思わず自虐的になってしまう。
ああ、せっかく矢嶋さんと話せてるのに、こんな態度、可愛くない。
そう思って、ふと顔を上げると、なんとなく目が合った気がした。
薄暗くてよく見えなかったけれど。
なんとなく、彼が穏やかに笑っている気がして。
思わず、口をついて言葉が出る。
「なんか……会社で、少し憂鬱なことがあって。いいことないかなーって、夜空に嘆いてたところです」
今度はひねくれたりせずに、素直に言えた気がした。