お隣さんはイケボなあなた
彼女は鏡の中の千紗をじいっと見つめて、首を傾げる。
「うーん、その様子じゃまだ見てないんですね」
「ん?」
祥子の言っている意味がわからず、千紗はきょとんとした表情のまま、鏡の中を覗いた。
「見てないって……なんの話?」
彼女は、千紗の言葉に言いづらそうに答えた。
「藤永さん、移動出てますよぅ? 営業課に」
「はっ……?」
千紗は、思わず持っていたリップクリームを洗面台に落としてしまう。
「え? 営業課……?」
「恋どころじゃなくなりましたね」
さすがの祥子も、いつものテンションではない、神妙な顔つきでそう言った。