お隣さんはイケボなあなた
その後、千紗は、矢嶋がどんな顔をしていたのか、玄関まで見送ってくれたのか、覚えていない。
バクバクと音を立てて鳴り出しそうな心臓を、必死に落ち着かせようとするので精一杯だった。
部屋に戻って、ようやく呼吸ができた気がする。
「……もう、急にあんなこというから」
鏡を見ると、真っ赤な顔をした千紗が、写った。
まだドキドキした熱が引かないようだ。
帰したくなくなる――。
そんな言葉が、矢嶋の口から出てきたことに、頭がついていけなくて。
「からかうにもほどがあるよ、もうっ」
千紗は、恥ずかしさでいたたまれなくなって、ベッドにクッションを投げつけた。