お隣さんはイケボなあなた
社内では「女たらし」なんて噂されていた久志が、顔を真っ赤にして似合わない小さな花束を手渡して「付き合ってほしい」そう言ってくれた。
いまどき花束なんて。
そう思わなかったのは、千紗があまり男の人と付き合ったことがなかったせいかもしれない。
「社内恋愛はバツが悪いから」という理由で、誰にも付き合ってることは言えなかったけれど。
時々社内で噂になる久志の女の影もあったが、千紗は彼の誠実なところを信じていた。
今年の三月。
久志が大阪支社に転勤が決まった時だって、寂しいなんて言わずに、もちろん笑顔で見送った。
ううん、「言わず」に、じゃない。
言えなかったんだ。