お隣さんはイケボなあなた
「あっ、やばい。遅刻しちゃう」
感慨にふけっている場合ではない。
鏡で、前髪を少し直し、きゅっと長い髪を後ろで結わいた。
そして慌てて、黒いパンプスを履く。
玄関の扉を、ガチャっと勢い良く開けて飛び出ると、外の人影とぶつかりそうになってしまった。
「すみませんっ」
千紗がふと顔を上げると、そこには引越し業者の男の人が二人、重そうなテレビを運んでいた。
もう少し勢い良く開けていたら、テレビに突撃していたかもしれない。
「こちらこそ、すみません」
相手も持っているものが、物だけに焦ったことだろう。