流れ星に4回目の願いを呟く時。
 楠町は懐かしい場所だった。


 中学時代はよく楠一中と練習試合をして、自転車での帰りに皆で海を眺めながら帰った。負けても勝っても、変わらずに迎えてくれる海が嬉しかったのをよく覚えている。


 楠町には海に面した大きな公園があって、その側に未開発の土地が多く残っていた。いずれそこに大きな商業施設が建つのではないかと、良く中学の先生たちが噂していたが、まさか合併して新庁舎が建設されるとは。周辺にはコンビニや旅館もできていて、10年という時の流れを改めて実感する。


「あれか。」


 国道の先に庁舎が見えた。建物は2つ親子のように並んでいて、真新しい庁舎の横に古びた旧役場があった。


 新しい庁舎を人々は歓迎したのだろうが、何か古びたその建物の方を見ると、少し切ない気持ちにもなった。


「どっちよ。」


 さて、市役所に着いたまでは良いが、真新しい建物、古い建物、どちらに入れば良いのか。土曜日の昼休みとあってか、看守さんも見当たらない。


 とりあえず、新庁舎に行って受付に聞けばどうにかなるだろう。


 そんな軽い気持ちで、その未だ新しい自動ドアをくぐった。





< 177 / 210 >

この作品をシェア

pagetop