私の小さな願い事
慶応 三年 夏

学ぶ

私は、桜山から離れて

旅籠に雇って貰い
掃除をしたり、野菜の皮むき
畑仕事をして過ごしている

少しづつ、目が悪くなる

耳も聞こえづらい

それでも、毎日が楽しい


高杉さんが亡くなってから

不思議と夢を見なくなった


数ヶ月たった





暑い……






月に一度貰うお給金を懐に入れ

私は、桜山へ

三食 宿付きな為、お金の使い道がない

桜山の神社に、全部それを入れる


〝新選組も桂さん達も睦仁様も
みーんな、ご無事でありますように〟



毎月の行事が終わり

振り返る


遠くにいる男の人から、香るにおい


「桂さん?」


私の目では、形で男とわかる程度

目を細め、ジロジロ見てると

男が手を挙げる

転けないように、少し慌てていくと

「桃!!転けるぞ?」

「桂さん!!どうして?帰ってくるなら
教えて欲しかったわ」

「桃をおどかしたかったんだ」

「ふふふっ 驚いたよ」

「ところで… 宿屋の主人が、毎月の給金を
桃にあげると、ふらりといなくなる
新しい着物でも髪紐でも買えばいいのに
どうしたものかと、心配していたが
毎月、全部賽銭にしてたのか?」

「無事を祈る人がたくさんいるんだもの」


そんなにおかしな事を言ったつもりはない

だけど…

大きなため息をつき

額に手を当て、項垂れる


「いいか?
お前に祈られるだけで、俺たちはいいんだ
神様だって、金が欲しいわけじゃない
全部賽銭にする必要は、ない!!」

「目が悪いから… 
ここに来れなくなったときの分も
先にいれようかなって……
私…欲しいものとかないし
とても有効な使い方をしていると
思ってたんだけど……」

「旅籠は、色々なお客様が来る
身なりを整えることも、仕事だ
畑仕事と普段着が一緒では、旅籠がまるで
桃に給金をあげてないみたいじゃないか」

!!!

「え!!そんなことないよ!!
たくさん貰ってるんだよ!?」

「それを知ってる奴いないだろ?」


私は、世間知らずだ

桂さんに言われて、気づく


「ご主人、とてもお優しいの
私ったら、気づかなくて……
桂さん…どうしましょう」


「高杉を看取ってくれた礼に、着物を買ってやろう」

「なんで?ダメダメ!!」

「気にするな!俺が買ってやりたいだけだ」





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