私の小さな願い事
慶応 三年 冬

新たな人生

旅籠に戻り楽しく働いている

寒さで手が凍る


しもやけやあかぎれがいっぱい



それでも、楽しいと感じている


「桃さん こんにちは」

「こんにちは!」


最近、よく私に会いに来る

遠藤謹助さん


異国の言葉を喋る、不思議な人


桂さんに頼まれてるのかしら?


頻繁に来る


「今日は、いかがなさったのですか?」

「寒くなりましたから、その…手に塗る
薬をお持ちしました」

「私に?」

「はい」

「どうして?」 

「お嫌ですか?」

「いえ…この前も、頂き物をしましたから
そんなに、いただいては気の毒です」

「僕が、あげたいんですよ!
貰って下さい!!」

「はあ ありがとうございます」


どうして、こんなに良くしてくれるのか

謎……



用がすんだら、すぐ帰って行くから


私に好意があるわけでもなさそうね

はっきり言って、会話をろくにしていないので、遠藤さんのことよく分からない


「お返ししなきゃなぁ」


よくよく考えると

ちゃんとした贈り物って、したことない


「ご主人?殿方は、何を貰うと嬉しいの?」

「……桃 遠藤様にお返しかい?」

「いただいてばかりだから」

「その気がないなら、気を持たせちゃいけないよ?」

「その気って?」

「……遠藤様に恋心があるかってこと」

「え?……ない」

「なら、お返ししたら気を持たせるから
やめときなさい
遠藤様は、桃に贈り物して楽しんでるんだ
お返しが欲しいわけじゃない」

「でも……気の毒で」


気を持たせない贈り物を考えることにした



「桃さん!こんにちは!!」

「こんにちは」

「これ、どうぞ
亡くなった母が着ていたものですが
暖かそうなので」

「遠藤さん、お一人で暮らしてらっしゃるの?」

「そうですが?」

「ちょっと待ってて」


バタバタ おにぎりと沢庵を包む


「お母上の大事な羽織を頂く訳にはいかないわ!だから、物々交換しましょう!」

遠藤さんは、一度出した物を引っ込めることは、しない

だから、交換ということにした

「桃さんが握ってくれたんですか?」

「はい 沢庵も私が
お口に合えばいいのですが」

「嬉しいです!!ありがとうございます!!
大事に頂きます!!」


こんなに喜ぶと思っていなかった

ある意味、気を持たせた気がする


日頃の頂き物にくらべたら


どうって事無い物なのに






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