私の小さな願い事
~慶喜~



依里は、本当に丈夫だ

医者もわからぬ毒を飲んで、翌日には

こうして廊下に座っているのだから

しかし


「依里 依里…」


遠くから、いくら呼んでも振り向かない


依里のそばにいくと、目が見えない

耳も聞こえないと


ニコニコしながら、訴える


「依里…そんな」

俺が何を言っても、依里は一方的に自分の用事を言う


多津を呼んでくれと言われ、驚いた


文を見ると確かに、仲直りしている


慶太郎の手形……


そうか……

依里は、こんな状態なのに子の為

気丈に振る舞っているのだな


怖いだろう

さみしいだろう



そっと依里の手を取り、○を書いた


これで安心と言った後


依里が慌てて


「あっ!!慶太郎を兄が先に抱っこして
ごめんなさい!!怒らないでね?」


俺は、そんなに心の狭い男か?


依里…


○×以外に、俺の気持ちを伝える方法は
ないのか?



「慶喜様、私、女の子だと思うなぁ~」



へらっと笑う依里が可愛くて

抱きしめる



「俺も」



「ふふふっ 元気に生まれてくれたら
どっちでも良いですね!」



「何で……見えないんだ!!
何で……聞こえないんだ!!
依里が、さみしいじゃないか!!」 


そんなこと叫んでも


「あったかぁ~い」


と俺にすり寄る


「ふっ のん気な猿姫だな……」









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