私の小さな願い事
慶応 二年 夏

心離れ

あれから頭痛もなく

順調にお腹が大きくなる


あの日見えた、光と歳三の音のことは


誰にも言っていない

変に期待をさせて、裏切ると悪いから


だけど、私は密かに期待している

いつか見える
いつか聞こえる


いつかが、すぐだと良いな


〝いえもちさまがなくなった〟


治った左手に多津が書いてくれた

知らせは、私の兄の訃報だった



「そう… お体が丈夫でなかったものね」


双子なのに、どうして私は、丈夫なの?

毒を飲んでも死なないんだよ?

なのに……


なんで?



なんで、私じゃないんだろう

優や兄は、もっと生きるべき人達だった




多津から、手拭いを渡された

ああ

私、泣いているのね…

気づかなかったわ








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