私の小さな願い事

～多津～


部屋を見渡す

布団の敷き方が綺麗、それに切った髪は

ちゃんと屑籠に

目線が合わないし、いつもの依里様だけど

何かが違う




慶喜様が、依里様の所に来ることがなくなった




不安なはずなのに、私を遠ざけるように

｢あちらの側室様のおそばに｣

という……


あちらは、悪阻もなく

元気なのに

どちらかといえば、依里様のそばにいたい



｢多津！！これ、片付けて！！｣

｢はい　畏まりました｣


この命令口調に

かつての自分を思い出した


そして、思い出すほどに、依里様を傷つけたことを思い知る


｢多津は、私の女中になったのよ！
山猿のことは、他に任せたら？｣


｢……｣


｢私が慶喜様に頼んであげる！！｣


｢いえ！！私は……｣


｢口答えは、許さない！！｣


｢……｣


もうすぐ出産……

依里様と約束したのに……


慶喜様が、私と依里様を引き離すはず


ないわよね……





｢多津…　すまん
依里を他の者に任せてくれ！｣

｢慶喜様、依里様には、私しかいません
お考え直し下さい！！｣

｢すまんが…　従ってくれ｣



依里様と慶太郎様を引き離した時

依里様がどんなに辛かったか……


依里様と引き離されて、よくわかった



｢せめて、出産に立ち合わせて下さい！！
合図とか、練習したんです！！｣

｢ならば、それを他に教えておけ｣


｢慶喜様は、依里様をお見捨てになるのですか！！！｣


｢……そうかもな｣





依里様に挨拶することも叶わず

この姫につくことになった



こんなに、仕事が苦になるのは、初めて




依里様が、無事に出産出来るか



二人とも命を落としかねない